[REPORT]報告・セミナー第30回(2022年12月17日)

〈NPO法人Education in Ourselves 教育を軸に子どもの成長を考えるフォーラム〉による「発達の遅れ」連続セミナー[実例から知る、「発達の遅れ」が気になる子どもの教え方]第30回[6年間の特別支援学級から通常学級へ。「そんな前例はない」と言われた子どもの成長記録](*)を12月17日(土)、埼玉県川口市の川口駅前市民ホール フレンディアで開催しました(報告/知覧俊郎)。

 

*2022年度ヤマト福祉財団福祉助成事業  後援 : 内閣府、文部科学省、厚生労働省、埼玉県、さいたま市、川口市、埼玉県教育委員会、川口市教育委員会、蕨市教育委員会、草加市教育委員会、越谷市教育委員会、北区教育委員会、豊島区教育委員会、足立区教育委員会、荒川区教育委員会、我孫子市教育委員会、埼玉県社会福祉協議会、川口市社会福祉協議会、埼玉県医師会、埼玉県小児科医会、埼玉県看護協会、全日本私立幼稚園連合会、全国私立保育連盟


【概要】

 

▶︎テーマ

6年間の特別支援学級から通常学級へ。

「そんな前例はない」と言われた子どもの成長記録

 

▶お話(体験発表) 中1の母親Kさん

▶進行・解説と質疑応答 河野俊一さん(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事)

▶日時・場所 12月17日(土) 9:30〜12:00 川口駅前市民ホール フレンディア(埼玉県川口市川口1-1-1)

▶参加者 48名(保護者約25名、教育関係者11名、保育関係者1名、その他 埼玉県、東京都、神奈川県、千葉県、群馬県、青森県、兵庫県に在住の方々)

▶参加費(資料代等) 1,500円

 


 

■■■ 

 

 第30回は、幼児期に「広汎性発達障害」と診断され、現在、通常学級で元気よく学んでいる中学1年生Kくんの成長記録の報告です。「発達の遅れ」をもつ子どもと学校の関係を考えるうえで興味深い内容となりました。

 

 彼は、小学校の6年間、特別支援学級で学校生活を送りましたが、中学校に進学する際、「通常学級で学びたい」という、かねてからの親子の希望を学校側と教育委員会へ伝え、その後、周りの理解・協力もあって通常学級へ通っている男の子です。

 

 セミナーの冒頭、母親のKさんは中学校進学当時をこう振り返りました。

 

「(小学校生活の間)『いつか交流授業を経験して通常級へ行けたら』という気持ちがありましたが、中学校進学にあたり希望を出して入学の準備を始める時、『通常級へ行ってみよう』という気持ちになりました。区の教育センターの方に現状を素直にお伝えして、心配・不安はたくさんあったんですけれど、エルベテークからのサポートもあり、校長先生、副校長先生と面談のうえ中学校から通常級へ行っています」

 

 特別支援学級から通常学級へ変わったプロセスに対し、「そんなケースは知っている」と話す学校関係者の方もいます。しかし、その多くは、小学校時代になんらかの形で交流授業を体験して授業の受け方などに慣れたという流れの中から中学校の普通学級へ進んだ子どものケースではないかと思われます。

 

 繰り返しますが、Kくんの場合、6年間、交流授業を受けることなく特別支援学級へ通い続けたあと、中学校進学で初めて通常学級へ通いました。きわめてレアなケースだと言えるでしょう。

 

 しかも、中学進学後は、不慣れゆえのトラブルはあるものの、毎日、嫌がることなく学校へ通い、得意な数学と英語で力を発揮しています。また、部活にも入り、友だちとのコミュニケーションや共同作業にも参加する日々を送っているのです。

 

 もちろん、「通常学級で学びたい」という希望だけで実現するものではありません。通常学級で学べるだけの最低限の力と習慣、意欲を子ども自身がもっていること、親や周りの大人が「Kくんの力を伸ばしてあげたい」という気持ちを共有していることが前提条件ではないでしょうか。

 

 通常級入学までの経緯とともに、そのあたりの力をどのようにして身につけたのかが今回の成長記録で一番の聞きどころだと思います。

 

 いま、いわゆるインクルーシブ教育が注目されていますが、情緒的な理念の前で議論がストップしているように見受けます。本当に中身の伴ったインクルーシブ教育が実現するためには前提として具体的に何が必要なのか、何を目的とすべきなのか。今回の成長記録がそのヒントになるのではないかと思います。

 

■■ 

 

3歳児健診で「広汎性発達障害」の診断

 

 さて、母親のKさんは初めての子どもに恵まれましたが、育てにくいことに早くから気づきました。落ち着きがないことや集団行動で周りと同じ行動ができないことなどが気になったのです。

 

 1歳半健診の時、指差しができないこと、言葉の遅れがあることを指摘されました。そして、3歳児健診の聴力検査では音が聞こえなくても勝手に手を挙げる状態でした。その時、発達支援センターの専門医による診察を受けるように勧められ、そこで「広汎性発達障害」の診断を受けました。

 

 その後、勧められるままに療育へ通い、臨床心理士と面談を受けながら言語療法、運動療法などを受けました。幼稚園にも通いました。

 

 しかし、小学校入学が近づくにつれKさんの心配は高まります。就学相談を受け、そのうえで今後の方針を考えることにしましたが、その面談でもKくんは落ち着きのない行動をし、結局、十数人の集団観察を追加で受けることになりました。その集団行動の観察でも指示されたことをやらずに自分勝手な行動を続けていました。

 

「個別で話をするとなんとか答えられるので『通常学級へ行ってみていいんじゃないですか』と言われましたが、集団行動の時にはうまくいかず、『支援学級がいいんじゃないですか』と言われました」

 

 特に、集団の場で、落ち着きのなさや、指示を受け入れて行動できないことなどのKくんの課題が目立ちます。

 

 Kさんは、ふだんから「発達の遅れ」を抱える子どもの親たちが集まるサークルなどには参加していたため、いろいろなケース、特に学校まで親が付き添ってサポートしながら通常学級へ子どもを通わせているケースについても情報を得ていました。

 しかし、Kさん自身、Kくんの家庭での様子からそうした状況になかなかなりにくいこともわかっていました。

 

「(学校で)私が『これはこうやるんだよ』と(子どもの)横で言ったとしても、それを素直に聞く状況ではなかったです。付き添いをして何か言っても癇癪まではいかないんですけれども、『なんだよ』みたいになったり物を投げたりしたら、周りの子がよけい変な子だと見ていづらくなるのではないかと思いました。支援級を見学すると、その担任の先生は特別支援学校の経験もある方で、『こういう気持ちで指導しているんですよ』と聞いたため、『この子には支援級のほうが向いているのかな』と考えました」

 

 こうして、特別支援学級へ入学という流れがつくられていきました。

 

「学ばせたい」という気持ちが強まり

 

 特別支援学級へ通うようになっても、Kさんの不安はずっと残りました。「このままの流れでいってしまうと自分勝手な言動をすぐ起こしてしまい、それがエスカレートするのではないか」「通常級の授業を受けないままだと将来の可能性が広がらないのではないか」……。

 

 いっぽうで、家で学習教材をやらせるとKくんはそれなりにできたり、漢字が好きだったり。それを伸ばしてその他の部分もついてくればいいなという思いもKさんにはありました。

 

 1年生の時は学校生活に慣れるので精一杯でしたが、1年生の3学期、集まりで知り合ったママ友からエルベテークの存在を知りました。そのママ友は同級生の男の子。その後、Kさんは紹介してもらった本『誤解だらけの「発達障害」』(新潮新書)に目を通しました。

 

「うちの子はまさに『教わる姿勢』ができていない、そこができればすべてが変わるんじゃないかな」、それが読んだ後の感想でした。

 

「発達の遅れ/発達障害」、またグレーゾーンと呼ばれる子どもたちであっても、しっかり相手の目を見て聞いたり話したりする練習や手本通りに文字の形や大きさ、筆順を守りながら文字を書く学習を通してこの「教わる姿勢」を身につけるようになります。そして、そこから子どもたちは大きく変わります。その事実にKさんも目を向けたのです。

 

 エルベテークの河野俊一さんは「教わる姿勢」は1対1の練習・学習が基本であり、そこから地道に取り組むと効果的だと説明します。

 

「幼稚園や保育園といった集団の中で先生の指示を聞いてその通りに動くことができない。そうすると、グループや集団の中での練習を繰り返しやっていく傾向があるようです。しかし、それではなかなか成果が上がらない。やり方や考え方を工夫したとしても、集団でできないものを集団でやってもなかなかうまくいかない。

 大事なのは1対1。つまり、相手の目を見て最後まで黙って話を聞く、きちんと返事をしたり、先生・親の目をしっかり見て挨拶する、話をする、返事をする、そして相手が何か言うまでは静かに待つことができる。そういった当たり前の姿勢を育てていくことが大事ではないでしょうか」

 

 実際にKくんが教室に通い、学び始めるようになってからどのように変わったのでしょうか。Kさんはこう振り返りました。

 

「とにかく、目を見て挨拶するとか、人の話は目を見て聞くとか。教室に入る時の挨拶が姿勢良く『こんにちは』『よろしくお願いします』から始まりますので、いままでそんなにきちんとやったことがなかったんですが、それをやれるという達成感が生まれ、教室に通う日は(いつもと)違う感じになって帰ってきました」

 

「教わる姿勢」を身につけ始め、自信を手に入れたKくんは毎週、担任・学校の了解をもらったうえで午後2時に学校を早退し、教室へ。家では1週間分の宿題に一生懸命に取り組む、そんな日々を送っています。このまま続ければ、やがて忍耐力と集中力が高まることは間違いないでしょう。

 

基本的な姿勢づくりは親と子の約束事

 

 ところで、学習のポイントは、これまでこのセミナーの中で何度も触れているように、学び方を知り会得するということです。つまり、ただ「できた」「できない」を気にするのではなく、その前提となるあいさつや返事、そして文字や数字などの学習ではルールや手順を覚えて思い出し、守れるようになることが最大の目標になります。

 

 そのような基本的な姿勢は、鉛筆の持ち方や一本の線を丁寧に書くといった身近な練習から生まれます。

 

 Kさんは実感したことをこう振り返ります。

 

「入学する前から鉛筆の持ち方が変で、直したくて注意するんですが、親が言うと反発して鉛筆を投げてしまう。それがどうにかならないかという悩みがあったり、漢字を書くにしても書き順を守って丁寧に書くと言われていたんですけれど、『いいじゃないか』『いいんだよ、僕は』みたいな態度でした」

 

 学習を続けるにつれて、Kさんが何度も注意しても改まらなかった姿勢がいつのまにか直っていました。「教わる姿勢」を身につけたからこそ周りの指示を素直に聞き入れ、自分の癖を修正することができたわけです。この事実が重要です。

 

 このように、すべての練習・学習において親と子どもが相手の目を見て、指示を出したり、指示を聞いたりする関係がポイントになります。「1対1で目を見て聞くとか静かに待つというのは親と子どもの約束事というふうにとらえていいと思うんです」と河野さんは強調しました。

 

交流授業を切望しても「ここではやっていない」

 

 特別支援学級の生徒が一部の科目に限って通常学級で授業を受ける交流授業ですが、Kくんが通っていた小学校の特別支援学級ではもともと実施されていませんでした。そのこともあり、「交流授業を受けたい」という希望をなかなか口にできませんでした。

 

 しかし、Kくんが少しずつ力を伸ばしたこともあり、Kさんは3年生の時の面談で学校側に「交流授業を受けたい」との希望があることを伝えました。

 

 学校からの返事は「この学校ではやっていないし、やっても効果はない」と否定的。結局、断られました。

 

「『そうですか』みたいなことで終わりました。4年生の時の面談では、『交流学級で板書したりはできるかもしれませんが、後ろの席の友だちと話をしたり、自分の好きなことをやっているので、交流授業へ行く意味があるかどうかは考えもの』でした」とKさん。交流授業の際には特別支援学級の先生が付き添わなければならないので実現は難しいこともネックだと告げられたそうです。

 

 こうした学校側の対応について、セミナー終了後のアンケートに学校関係者から「特別支援学級の担任として「可能性がせばまる」場であってはならないと強く感じました」、「小学校時代、支援級と普通学級との交流が一度もないということに驚きました。交流学習は、支援級の児童にとって必要不可欠な内容です。それを行わない学校の姿勢に疑問を感じます。子ども・保護者に寄り添えない小学校の教育姿勢は普通ではありません」といったコメントが相次ぎました(詳細は「アンケート」)。

 

 粘り強く学校側へ希望を伝えていけば状況が変わったかもしれませんが、運悪くその頃コロナ禍が押し寄せてきて休校が続き、交流授業うんぬんの話をする雰囲気ではなくなったそうです。

 

中学校進学のタイミングを活用

 

 希望を伝達するタイミングは中学進学時に見定めました。「この機会を逃すと通常学級へ行くことはできない」という思いからです。中学校の特別支援学級へ進む際には特別支援学級か特別支援学校を決める就学相談が行われますが、それを活用しようとKさんは考えました。

 

「すでに校長先生との面談で『中学校に入るきっかけで中学校の校長先生にお願いして(通常学級へ)チャレンジしてみることは可能性があるかもしれない』という話はいただいたので、いろいろ迷ったんですが、6年の担任に相談しました」

 

 その後、かつて中学校から通常学級へ進んだ子どものケースを知っていた担任のアドバイスもあり、区の教育センターに相談。アドバイザーと面談すると、周りが驚くぐらいKくんの声が大きいこと、表情が乏しいことなどを理由に支援級判定が下りました。しかし、「きれいな漢字で書いているし、簡単な計算問題や国語の問題は全部できている」という評価も。

 

 その評価を受けて、Kさんは幼児期からこれまでの学習への取り組みの様子などをアドバイザーへ伝えした。また、Kくん自身の気持ちを尋ねられたので、漢字と英語が好きで、勉強に積極的に取り組む姿に触れ、「レベルに合った学習がしたい」と本人が口にしていることも伝えました。その結果、「そういうことでしたら、中学からチャレンジしてみますか」との結論になりました。

 

 一連のプロセスについて、河野さんは手順の大切さを強調します。

 

「Kさんはまず、学校の窓口である担任の先生に自分の気持ちを伝え、相談しました。担任の先生から校長と相談するように言われ、教育センターに相談するように言われるなど、きちんと順番を踏んでいきました。ここがとても大事なことで、手順やルールを無視し飛び越えて相談しても、協力してもらえるものもしてもらえなくなります」

 

 思いが強ければ強いほど親は手順を無視して自分の気持ちや判断だけで突っ走りやすいものですが、遠回りに見えても冷静な交渉の進め方が最終的に有益だという指摘です。

 

練習不足を取り戻す気持ちで

 

 中学校では、校長先生、副校長先生が参加して面談。校長先生も「6年間小学校支援級で中学校から通常学級に来た子は初めて。前例がない」と話されたとのこと。

 

 しかし、Kくんは能力別編成で行われる数学と英語の授業では、一番優秀なクラスで学んでいます。コロナ禍が長引くなか、エルベテークの間ではオンライン授業を続けましたが、最近、学習効果の観点から以前のような1対1の面談に切り替えたそうです。

 

 部活動も続けています。昨年秋に開かれた発表会では照明係を務め、その後、わずかな時間ながらセリフを与えられ、役も務めました。部活に入って間もない頃、「暇だ」「苦手だ」「難しい」などと言ってKさんを困らせることもあったKくんですが、Kさんがみんなと力を合わせて共同作業をすることの大切さを伝えると、気持ちを切り替え、再び取り組む姿勢を見せたとのことです。 

 

 いっぽうで、友だちと仲良くしたい気持ちが募って、距離感がつかめず、近づきすぎてしまい、相手から嫌がられてしまうこともあります。

 

 河野さんは「初めての経験ばかり。いまは練習中」と言います。

 

「周りを見て様子を確認したり、周りに尋ねてみたりするとか、まだそういうことは練習不足ですけれども、彼は学校が大好きです。小学校時代、授業を受けたこともノートのとり方さえきちんと練習したこともない、友だちと一緒に遊んだりつき合ったりすることがほとんどなかった、そういう知らない子どもばかりの学級にいます」

 

 思いついたことは言えても、他人の意見を聞いたうえで自分の考えをまとめて発表する、これは大人でもかなり難しい作業です。過去のKくんの状態を知らないで、「これができない、あれができない」と決めつける大人がいたとしたら、子どもの成長の芽をつぶすことにならないでしょうか。

 

 Kくんの場合、技術家庭や美術、体育などの科目は得意ではありませんが、しかし、それは苦手ということではなく、経験したことがなく、要領がよくつかめていないということ。また、運動にしても、いままではマット運動をしたり、走ったりするだけの運動。それが今は、事前に整列したり、ルールに従って体を動かしてバスケットボールなどをしなければなりません。

 

「Kくんがまだまだ勝手な行動をしてしまうのは、彼自身が何をしていいのか、わからないのだと思います。きちんと目を見て『こうしてほしい』と伝えると、彼はできるんです。そんな子どもは少なからずいますが、周りの親や大人が『何をしたらいいか』『何をすべきか』を声かけしながら教えていくと、子どものほうも『こういう時にはこうすればいい』がわかり、安心して行動できるようになります。自分一人で考えてできるようになるのはまだまだ先のことです」

 

 やはり、長時間一緒に過ごす家庭での親の対応が鍵を握るといっても過言ではありません。河野さんの言葉です。

 

「子どもが『僕は学校になじめない』と言ったら、心配のあまり慰めようとして親は理由を聞いたりいちいち説明したりしてしまうのではないでしょうか。『通常学級は初めての経験。大変なことはいっぱいあるけれど、ひとつひとつ慣れて身につけて頑張っていこう。私も応援するから』と言えば、それで済むわけです」

 

 結局は、練習がすべてということではないでしょうか。それを促すのが親や大人の役割だと思います。

  

 コミュニケーションにまつわるKくんのトラブルはなかなかなくならないようですが、練習や学習を積み重ねるうちにやがて乗り越えるのではないかとKさんも期待しています。

 

「数学と英語には自信をもって取り組んでいます。自信をもってやる気になったことはどんどんやる子なので、いまできないこともやればこれからできるようになると思います。周りのアドバイスも受けられるようになって成長できるのではないかと思っています。私も協力していきたいと考えています」

 

特別支援教育の目的とは

 

 ところで、ここまでこのレポートを読んできた方の中から「特別支援学級でもいいのではないか」「無理に通常学級へ行かせる必要はないのでは」といった意見が出るかもしれません。「無理に交流授業を受ける意味はない」と似たような反応です。

 

「特別支援教育とは何か」という問題とも絡むことですが、河野さんの言葉が参考になるのではないでしょうか。

 

 「『特別支援学級や特別支援学校ではいけない』と言っているのではありません。特別支援教育の目的は、学力や言動の面で課題がある子どもに対し適切で効果的な教育を行うことにより、子どもの課題を改め、コミュニケーションなどの力を伸ばすことだと思います。できることなら、みんなと一緒に通常学級で学べるような力をつけさせていくことです。

 しかし現状は、『特別な子どもだから』という理由で『無理をさせない』『学習は必要ない』などと考え、教育の目的が曖昧になっていることが心配です。就学前の子どもが通う療育でも同じことが言えると思います」

 

 適切な教育とは、たとえば、「してはいけないこと」があったなら、うやむやにせず、きちんと「です」「ます」を使って「どこがいけないのか」を注意し、言動を改めさせる接し方・教え方ということです。

 さまざまなハンディがあっても、そうしたやり方によって学ぶ姿勢と習慣を身につける、力が伸びる、穏やかな性格になる、そんな子どもがかなりの数いる事実に目を向けたいところです。

 

 その事実をしっかり受け止めれば、特別支援教育や療育の内容・中身が大きく変わり、子どもたちの大きな成長が期待できるのではないでしょうか。

 

 いま、特別支援学級や特別支援学校に通う子どもの数が増え続け、通常学級で学ぶ子どもの数が減り続けていますが、この流れが改まり、通常学級で学ぶ子どもの数が増えるという真っ当な状態に至るような気がします。その時、場所や時間を共有するだけの形式的なインクルーシブ教育ではなく、実質を伴う本当のインクルーシブ教育が実現するのではないでしょうか。

 

 繰り返しますが、「通常学級で学べるようにするために私たちはどうするか」と考えること、この視点が特別支援教育を進めるにあたって大切だと感じます。

 

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【参考 アンケート】(全部で33通。そのうち、誤字・脱字を訂正して原文のまま紹介します)

 

●保護者の体験発表についての感想-1「日頃、子育て・教育で気になっていることは?」の回答

 

・就学前の保護者の声

 

「このまま成長して行ってどの様に育つのか自立して生活していけるのか想像できず不安があります」(4歳の保護者)

「・こだわりが強い場面が時々ある ・口頭指示が苦手(視覚優位)」(5歳の保護者)

「・良好なコミュニケーションがとれていない面がある ・国語力(助詞の使い方、鏡字を書いてしまうことがある)」(6歳の保護者)

「普段から友達との交流がない(本人も周りの子と遊ぼうとしない)ので、小学校に入った時の友達との距離感が心配」(6歳の保護者)

 

・小学生の保護者の声

 

「すぐに子に対して怒ってしまうこと。なかなかすぐに行動に移さないので「早く早く」と怒ってしまう。うまくうながすことが出来ればいいが、むずかしい。親の気持ちのコントロールがむずかしい」(小1の保護者)

「学校のトイレに入れず、休み時間に母親が付き添っています。このまま自立できなかったらと思うと不安です」(小2の保護者)

「現在小学校の支援級に在籍。中学校以降の情報がなかなか入らず不安に思います。気が散って自分の世界に入りやすい所を改善していく方法を知りたいです」(小4の保護者)

「普通級へ行った際に浮いたりしてなじめない→登校拒否にならないか不安です」(小4の保護者)

「家庭学習でもルールを守らせようとしているが、うまく行かない時は𠮟ってばかりの時間になってしまう」(小5の保護者)

「小4〜支援級で、中学校は通常級に行く予定だが、ついていけるか不安(指示が通らなかったり、ききのがし、板書ができないなど)」(小6の保護者)

 

・中学生の保護者の声

 

「・言葉の理解力、読解力、表現力が苦手。どのように克服していけば良いか? 学習・練習方法 ・今後の進路が急に不安になることがあります」(中1の保護者)

 

・教育関係者の声

 

「「交流学級の授業を受けたい」という希望がかなわない事実におどろきました」

「子どもの我慢する力、待つ力、受け入れる力がとても不足しているように感じる」

「就学相談の在り方についてはずっと疑問があります。都道府県市区町村によってちがいもあると思いますが、多くの保護者は通常級で学ばせたいと話します。特別支援学級の存在意義って何なのでしょう。知的発達に遅れがない子なら通常学級で学ぶ方向でまずは考えてどのようにしたら、その子が学習をつかみ重ねていけるかを学校・家庭・他機関で協力・提携していく社会をつくっていかねばならないと思います」

「課題を抱える児童。文科省の調査でようやく6.5%から8.8%に上げられました。現場感覚で言えば、こんな数値ではなくもっと多いように感じていました。個人的には20%近くではないかとさえ思える学校もあります。現場では日々指導に苦慮しています」

 

●保護者の体験発表についての感想-2「特にどの部分に共感されましたか?」の回答

 

・就学前の保護者の声

 

「学校側とのコミュニケーション(礼儀正しい挨拶と懸念点・改善点の共有)」(3歳の保護者)

「学校の意義 授業を通して色々なことを身につけていく場であること」(4歳の保護者)

「社会のルールを学び、経験をつんでいくことが大切であり大事なことがわかりました。家庭でのしつけやルールを教えることが難しい時代です。自由放任で育ててしまいました。やはり幼児からの指導を普通児でも行うことです。親の考え方をしっかり持つこと。あまりに世の中は混乱している」(5歳の祖父)

「・「書く力が低下している」 ・休み時間は大丈夫か……等、親がなかなか入りこめない、「子供同士のコミュニケーションが心配」」(5歳の保護者)

「・基本的な生活習慣・姿勢ができていないと集団療育をしても無駄 ・手順を踏んで相談していくことが重要(自分勝手な対応をしない) ・本人の意思も重要」(6歳の保護者)

「「中途半端に物事を終わらせると子ども本位になる」 面倒くさがらずに細かいところまで最後までルールを子どもに教える大切さを改めて感じました。親もこの初心に戻って改めたいと思いました」(6歳の保護者)

 

・小学校の保護者の声

 

「「まわりからのアドバイスを受け入れられれば成長できる。」本当にその通りだと思います」(小1の保護者)

「目を見て話すことの大切さ」(小1の保護者)

「暇な時に何をしたら良いのかわからずトラブルに……という事は本当にそうだと思いました(家庭でも学校でも)。中学校上がる際や他の時でも手順を踏む事という話もとても参考になりました」(小4の保護者)

「・「~してしまって」等、ご自分の判断に迷いや後悔等がありつつも前に進んでいく様子に私も立ち止まらずがんばっていこうと思いました ・コミュニケーションのとり方の不安 ・子供との会話をしつかりしているところ」(小4の保護者)

「トラブルの話 様々なトラブルがあるのは、経験がなければあたり前。トラブルも練習、経験ととらえて、ひとつひとつ話をしてのりこえていく」(小4の保護者)

「障壁やトラブルを乗り越えて自信・成長につながっていること」(小5の保護者)

「あきらめずに子供のためにサポートしてるところ」(小6の保護者)

 

・中学校の保護者の声

 

「親御さんが、学校の先生と連携がとれていて、子供のために協力して頂ける環境をつくっていらっしゃることがすばらしいと思いました」(中1の保護者)

 

・教育関係者の声

 

「特性・個性と個人の課題は別であるということ」

「以前、特支学級の担任をしていた時に6年間支援級に在籍していた児童が中学校から通常級で無事卒業したということがありました。公立高校にも入学し、その後、民間の企業に就職しました。営業を担当しており、コミュニケーションが苦手だったのに、よくぞ、成長したなと驚いています。学力と生活ルールを学ばせればうまくいくことに共感しました」

「特別支援学級の担任として「可能性がせばまる」場であってはならないと強く感じました」

「授業を通して学習をさせていくことが大切、いかに授業を充実させていくことが大切か、というお言葉に納得です」

「ルールは小さい時から教えていくこと。練習」

 

●保護者の体験発表についての感想-3「『子育て(指導)のために役立ててみよう』と思ったことはなんですか?」の回答

 

・就学前の保護者の声

 

「根気良く言い続ける 本人が嫌でも将来のことを考えて言い続ける」(3歳の保護者)

「暇な時間の過ごし方は普通のお子さんでもトラブルにつながりやすい時間なので、それを今から意識して考えていこうと思いました」(5歳の保護者)

「◎我慢する、待つ、などの練習を日々させる=ルール・エチケットとしてきちんと教えていく ◎苦手なことを「克服する」に視点をむけすぎず、苦手な場にいつづける、いなくてはならないことに慣れさせる「その場に居続けることが大事」」(5歳の保護者)

「出来ることを伸ばして、周囲の助言を受け入れる素地を作る」(6歳の保護者)

「子どもの自立性を得るのにどうしたら良いか悩んでいたが、「何をしていいかわからない子どもに対し、その都度、これをします」と声かけを続けていく事が子どもたちにとって練習になるんだなぁと思いました。周りの声かけによりくり返しアドバイスをされ、それが受け入れられると成長につながるんだなぁと感じ、普通級で良い意味でもまれるのは大事なのかなと感じました」(6歳の保護者)

 

・小学生の保護者の声

 

「改善しなければいけないことは、早めに取り組む」(小1の保護者)

「目を見て話す、聞く、あいさつするなど基本的な所、再度見直したいと思いました」(小4の保護者)

「・親自身も自分本位にならず、周りの助言を聞くこと ・現在子供の行動がうまくできないことは、練習している段階だと思って、教えて待つこと」(小5の保護者)

「「経験していない事は出来なくて当たり前」という意識に注意し、出来た事は沢山言ってやる、成功体験を一杯作ってやりたい 「調子が良い時は助言を受け入れられ易い」に改めて忘れないようにしたい」(小6の保護者)

「学校に子供の事を伝え応援する姿勢」(小6の保護者)

 

・中学生の保護者の声

 

「授業をうけること→学ぶ姿勢を勉強している 学力だけでなく、指示・ルールをうけいれる、応じる姿勢をつくっているという言葉に感銘をうけました」(中1の保護者)

「毎日の基本をできるようになるまで継続します 親しか毎日向き合うのはできないですからと……改めて考えさせられます」(中1の保護者)

 

・教育関係者の声

 

「やればできるようになってきた事実を伝えやる気を伸ばしていく」

「話は目を見て話す、聞く、返事など、教育・躾の原点はみんな同じだと思いました」

「集団の中で学ぶのがむずかしいことは一対一でしっかりと教えるという強い気持ち」

「1対1で目を見てあいさつ、話すこと、指示があるまでだまって待つことなどをしっかり教え身につけさせることがまずはとても大切なのだということにその通りだと思いました。明日からの教育活動に生かしていきます」

 

●保護者の体験発表についての感想-4「教育・療育の現状についてのご意見・提言をお聞かせください」の回答

 

・就学前の保護者の声

 

「素人ながら、普通学級と特別支援学級の間のような学習を重点を置いて進める、交流を多く行うなど、第3の学級が必要なのではと思いました」(3歳の保護者)

「現在の発達障害者の受け入れ制度は充実しておりますが、子供を「そのまま」で受け入れるだけです。「知能が5才のままで」。やはり、学習によって知能を延ばしてゆくことが必要で大事なことです……河野代表が児どもや保護者によりそって子供の成長を願って指導していただけること、非常に喜んでいます。今の状況を続けていっていただけること、願っています。発達障害者の指導者として、実践者として最高です」(5歳の祖父)

「厳しく𠮟る先生が親の意見、批判により萎縮したり、休職されたりということが周りの学校でも多くなってきたように感じます。エルベテークのように問題行動はきちっと注意して是正させる厳しさであれば子どもの為になると思います。虐待をする先生は問題外ですが、何もしない、全て程々のような先生が多くなるような気がして心配です」(6歳の保護者)

 

・小学生の保護者の声

 

「何かあったら支援級と言ってもらえたのはうらやましいです。わが家は普通級へ行ったらじゃあ支援級へとはできませんよと言われています。逃げ道はほしいです。不安です」(小4の保護者)

 

・中学生の保護者の声

 

「支援級の先生同士でも教育方針や対応がちがうため、それ(「自分で考えなさい」と言われ、パニックになる)に子供が混乱し不安を感じてしまうことがある。先生との連携が大事だと思っています」(中1の保護者)

 

・高校生の保護者の声

 

「幼児期は大切!! 早く対応との事ですが、オムツの話のようにその子のペースということで親が「まだ大丈夫」という感じではなかなか相談等されないケースが多く、健診でもあまり伝わらないのか? 認めたくないのか? グレーゾーンの場面も多く、難しい状況のような……感じています」(高1の保護者)

 

・教育関係者の声

 

「現在小学校の担任をしています。発達に課題をもったお子さんは確実に増加しています。保護者の方によっては、学校に丸投げ状態です。保護者の姿勢や考え方を改善するために苦労しています。担任の力量にも差があり、学校全体で取り組むような体制をとっています。これも学校によっての差があると思います」

「療育機関と学校が手をとりあって子どもの教育にかかわっていけるといい」

「国や県はインクルーシブ教育推進を提言しているのに、まだまだ現実は程遠いと感じます。通常級をうけもつ教員も特別支援教育についてもっと勉強しなければならないと思います。本日のKくんも環境が整っている通常級であれば本来、小学校入学時から通常級で学ぶお子さんだろうと思いました」

「小学校時代、支援級と普通学級との交流が一度もないということに驚きました。交流学習は、支援級の児童にとって必要不可欠な内容です。それを行わない学校の姿勢に疑問を感じます。子ども・保護者に寄り添えない小学校の教育姿勢は普通ではありません」

「毎回、貴研修会を楽しみにしています。教育の力で子どもの成長を大きく伸ばすこと、まさに理想です。学校現場でどうすればいいのか、いつも考えさせられます」

 

■■ 

 

 おかげさまで、これまでコロナ禍の影響で1回だけ中止せざるをえませんでしたが、なんとか第30回を迎えることができました。2017年に始めた成長記録の報告も厚みを帯びてきたように思います。

 

 なお、開催にあたって埼玉県内、東京都内、千葉県内の10の教育委員会の後援名義を受け、また埼玉県内、東京都内、千葉県内、神奈川県内の教育委員会約40の協力も得て、各地域の小中学校、幼稚園、保育園などにチラシを配布しました。福祉関係、医療関係、保育関係の各団体から名義後援をいただきました。

 ありがとうございました。

 

 (報告/2023年1月17日 知覧)

■次回(第31回)

 

[テーマ]

どの子にも学ぶ力がある!

幼児期からの効果的な教育を語る

 

[プログラム](シンポジウム)

パネラー

 Mさん(高3の母親) 保護者の立場から

 Hさん(社会人) 当事者/子どもの立場から

進行と解説

 河野俊一さん(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事)

 

[日時] 2023年2月25日(土) 9:30〜11:45(受付開始9:30〜)

 

[会場] 川口総合文化センター リリア(埼玉県川口市川口3-1-1)

 

[定員] 100名(保護者、教育・療育関係者、医療・福祉関係者、市民など)

 

[参加費](資料代等) 1,500円

 

*コロナ禍の状況次第で、日時・定員等の変更の可能性があります。

 

撮影 堀)