[NEWS]セミナー第15回を開催しました

2019年3月16日(土)、連続セミナー[わが子の「発達の遅れ」、その改善に取り組む保護者たち]第15回(赤い羽根共同募金重点助成事業 後援/埼玉県、埼玉県教育委員会、埼玉県社会福祉協議会、川口市、川口市教育委員会、川口市社会福祉協議会)を開催しました。


 第15回は、小学1年生の時、息子さん(現在、中学2年生)の普通学級入学の条件となった付き添いを、ほぼ10ヶ月間、登校から下校まで一日中、実行されたお母さまによる貴重な体験発表でした。

 

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 Mさんは、体験発表の中で繰り返し、学習習慣と生活習慣の大切さに触れました。冒頭、現在の息子さんの様子を紹介した際には、次のようにお話しされました。

 

 「家庭では生活面においては基本的に自立しています。家庭内で会話に困るようなこともほとんどありません。朝なども起こすこともなく、自分で起きて学校の支度をして、すべて自分で行って出ていきます。いまのところ皆勤賞で学校に通っています。学習面は声をかけることもなく自ら毎日2、3時間の時間を学習にあてています」

 

 かつて発語がなく多動傾向があった息子さんとはとても思えないでしょう。

 

 それにしても、Mさんによって「発達の遅れ」と学習習慣が関連づけて語られることに驚く方も少なくないかもしれません。なぜなら、いま、「発達の遅れ」をもつ子どもに対応する時、「この子たちに勉強させても意味がない」「(勉強させる)時間がもったいない」「勉強よりも生活面の自立が先」という対応がほとんどだからです。

 

 そこに共通しているのは、無意識の「諦め」が前提にあるのではないでしょうか。その意味で、自らの努力によって「諦め」を乗り越えたMさんの体験発表は、「発達の遅れ」をもつ子どもへの接し方・教え方を探し求める人たちにとって良い見本になるように思われます。

 

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 Mさんの息子さんが、現在のように安定した学習習慣と生活習慣を身につけるまでには、親の努力と子どもの努力、双方があったと言えます。なにしろ、息子さんは3歳になっても言葉が出ず、多動傾向もあったからです。

 Mさんは振り返ります。

 

 「変な話ですけれども、動物のようにキーキーワーワー言うだけで、皆さんご存知かもしれませんが、自閉症の特徴みたいな、高いところが好き、私の手を使ってのクレーン現象、バイバイも逆さバイバイ、濡れているものはだめとか、ほとんどぴったり当てはまるような感じでした」

 

 ようやく、息子さんに光が射すことになった学習中心の接し方・教え方に出会ったのが、3歳3ヶ月の時でした。

 

 一冊の本(『発達の遅れが気になる子どもの教え方』)がきっかけでした。そこには、「発達の遅れ」をもちながらも、学習を積み重ねることによって、良い意味で大人の予想を裏切りながら言葉を発するようになったり、学習習慣・生活習慣を身につけたり、穏やかな性格になったり、そうした子どもたちの成長する姿が何例も紹介されていたのです。

 

 しかし、それまで情報に振り回されてきたMさんでしたから、夫婦で本の内容について「これは信じられるだろうか?」と話し合うことから始まったそうです。兄弟、両親にも本を読んでもらいました。

 

 当時、ご主人のお姉さんは小学校の教師でしたが、率直にこんな感想を述べたそうです。「こんなことはないんじゃないの。自分もそういう子をいっぱい見てきた、だけど改善している子はいない。毎日、迷惑をかけている子もいっぱい見てきた。直って良くなっている子はいないので、これはたぶん嘘というか、違うだろう」と。

 

 他人事では済まされないMさんは必死です。本に書かれた指導法と子どもたちの成長を読んで、「うちの子もこうなってほしい」と願い、その学習教室(エルベテーク)で学ぶことを決断しました。

 

 

 まず、50音一つひとつのチェック、どの音が出てどの音が出ていないかの確認から学習が始まりました。口の開け方や息の出し方などを修正しながら一音ずつ練習していくのです。その結果、3、4ヶ月後にはすべての音が出せるようになり、次第に単語の追唱へと進んでいきました。

 

 やがて、言葉を発するようになると、今度はおうむ返しと独り言が始まりました。これは、言葉の遅れがある子どもがよく迎える事態です。Mさんはアドバイスに従って次のように対応しました。

 

 「とにかく、目を見て『しません』『言いません』を言い続けるしかないということですね。喋りそうな時に『しません』『言いません』。でも、言うんですけれども、また言ったら『しません』。その繰り返しです。はてしなくいつ終わるのかというぐらいの闘いみたいなものでした」

 

 

 その小学校ですが、入学にあたってMさんは大きな試練を迎えました。入学前年の就学時健康診断を迎え、事前に周到に練習して出かけたものの、息子さんは指差し形式の視力検査に戸惑い、パニックに陥ったため、教育委員会から特別支援学級か通級学級を勧められました。

 

 「普通学級でお願いします」と何度も伝えたMさんに対する返答は「朝から晩まで付き添うなら、普通学級でもいいですよ」でした。すぐにMさんは「そんなことでいいんですか。よろしくお願いします」。

 

 とはいえ、実際の付き添いの大変さは想像以上でした。40代の、学年主任を兼ねていた担任の先生から警戒される中での付き添いがスタートしました。Mさんは淡々と振り返りました。

 

 「明らかに警戒されているのはわかっていたので、なるべく目立たないようにと教室の後ろのほうに居たんですけれども、とにかく多動なので座っていられない。後ろにいるんですが、座っていられないことを制さないといけないので、結局は床に座っているような状態で横に着くようになりました」

 

 Mさん親子は教室の中でまるで石ころのような存在でした。息子さんに指示を出すのはMさんの役目。毎朝、4時半に起床し、家事を済ませてから息子さんと一緒に登校し、下校まで学校で過ごしました。約10ヶ月続きました。

 

 「こんな状態がいつまで続くのか」と辛い思いになることもあったMさんですが、アドバイスを参考にこの関係をじょうずに活用した点がMさんの見識だと思います。

 

 「発達の遅れ」をもつ子どもへの対応がわからない担任の前で、授業中、どこを見ればいいのか、どうすればいいのか、理解できない言葉をどのような手順・方法で教えていけばいいのかなど、指示の出し方・接し方をMさん自ら実践しました。

 

 

 Mさんはいつしか、クラス全体の相談員のような頼もしい存在になっていました。担任の先生が用事で席をはずしている時には、子どもたちから「代わりに先生やんなよ」と言われたこともあるそうです。

 

 「1年生の終業式が終わったあとに先生が『今日でこのクラスは終わりだね。みんな1年間、ありがとう』という話をなさって、その時に『みんなにはもう一人お礼を言わなきゃなんない人がいたよね』と言ってくださいました。『(M君の)お母さんは自分の子のために来ていたんだけど、世話にならなかった子はいないよね』とお話をして、みんなが私に『ありがとうございました』と言ってくれました」

 

 その後、「できないこともあるけれど、できることもたくさんある子だ」と理解した担任の先生は「私が見届けたいから」と校長にお願いし、3年生までの3年間、息子さんの担任を務めることになりました。学校との信頼関係づくりについて考える際、とても参考になるエピソードではないかと思われます。

 

 

 6年生になると、初めて担任は男の先生になりました。中学校へ進学した時のことを考慮しての対応だったようです。

 

 「他の先生がおっしゃるには、『この1年間は男の先生で息子のことを知らない先生が受け持って慣れさせてみましょう』ということでした。そこまで配慮していただいたんだなと感謝しました」

 

 中学校への進学にあたって6年生の担任の先生は、中学校の先生との話し合いの場で、事前にMさんから聞き取りしていた要望を伝えてくれるほどでした。中学校の入学式のあと、新しい担任の先生に面談する機会があり、そこで「うちの息子にはこんな苦手なところがありますが、よろしくお願いします」とMさんは伝えることができました。高校受験への意欲についてもその場で話すことができました。

 

 このように、小学校と中学校の間でスムーズな連携ができたベースには、やはり、親の努力と子どもの努力があったからだと言えると思います。

 

  

 そのMさんが、家庭学習の最大のポイントとしてあげたのが予習の大切さです。特に、「発達の遅れ」をもつ子どもの場合、あらかじめ授業がどのように進行するのか、授業でどのような問題・質問・言葉・漢字などが出てくるのかを知り、それを準備しておくことが家庭学習をスムーズに進めるコツだったと強調しました。

 

 小学校時代は、担任の先生から予定表をもらい、それをもとに家庭学習を組み立てていたとのこと。それは、美術や体操、家庭科の授業、さらには運動会などの学校行事に関しても同様でした。

 

 「知らない状況が一番困ることなので、予習、これはとても大事なことでした」

 

 こうした親の努力と工夫によって、息子さんは学習や学校生活にすんなり馴染むことができたのです。中学校に入ると、息子さんはその日の家庭学習は自分で決めて自分から初めているそうです。その時間は、2時間から3時間……。

 

 

 かつて幼児期に言葉がなく、3、4ヶ月の練習を経てようやく50音が出るようになった息子さん。自閉症特有のさまざまな言動もありました。その彼がいま中学2年生になり、英語や数学の試験で高い得点をあげ、成績はクラスでも常に上位を占めるようになりました。穏やかな性格で、地域のボランティア活動にも参加しています。

 

 体験発表の終わりのほうでMさんは、「息子をなんとか社会で生きていけるようにしてやりたいという強い思いと親としての責任感。いつもそれを感じていましたし、息子の未来の姿、『こうあってほしい』『こうなってほしい』ということを思い描いて、『それを実現できたらいいな』という気持ち、あとは感謝の気持ちです」と子育ての姿勢について話しました。

 

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  今回、「私は普通の母親なので、人前でお話しすることはほとんどないのでちょっと緊張しています」と話し始めたMさん。大切なポイントを押さえた貴重な体験発表をしていただきました。改めて感謝いたします。

 

  なお、セミナーに参加された保護者は、埼玉県を中心に、東京都、神奈川県、千葉県、茨城県、栃木県、群馬県、長野県、宮城県の1都8県に在住の方々でした。お子さんの年齢は、下が2歳、2歳6ヶ月、上は高校1年生という状況でした。

 

 今回の体験発表が何かの参考になったら幸いです。

 

 

【テーマ】

 

[「この子と会話することは一生ないでしょう」、その子が高校受験をめざす(言葉・コミュニケーションの遅れ、多動への対処法)

 

【プログラム】

 体験発表(中学2年生の母親)

 進行・解説・質疑応答(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事・河野俊一さん)

 

【開催日時】

2019年3月16日(土)10:00〜12:30

 

【会場】

メディアセブン コミュニケーションスタジオ(川口駅東口「キュポ・ラ」7階 048-227-7622 http://www.mediaseven.jp/)

 

【定員】

34名(うち保護者、教師など有料入場者は29名)

 

【参加費】

800円(資料代等)

 

*より詳細な内容は近日中にホームページ上(「報告■REPORT」欄)で報告します