[NEWS]セミナー第14回を開催しました

2018年12月22日(土)、連続セミナー[わが子の「発達の遅れ」、その改善に取り組む保護者たち]第14回(赤い羽根共同募金重点助成事業 後援/埼玉県、埼玉県教育委員会、埼玉県社会福祉協議会、川口市、川口市教育委員会、川口市社会福祉協議会)を開催しました。


 第14回は、好評だった前回(第13回)を受け、就職に至るまでのプロセスにおいて身につけておきたい(準備しておきたい)大切な力・姿勢とは何かを掘り下げる内容となりました。前回同様、体験発表は昨年(2017年)春に就職した社会人2年目/21歳男性の母親Mさんです。幼児期から就職を経て現在に至る長期間の成長記録を発表しました。

 

 

 ところでいま、「発達の遅れ」を抱える子どもの就職について注目が集まっていますが、就職活動時に直面する面接の技術的な練習やビジネスマナーの習得などがいわゆる「就労支援」の具体策としてよく取り上げられます。

 

 しかし、短期間での間に合わせの練習ではやはり場当たり的な対応になってしまうのではないかと思われます。たとえ、就職という壁を突破し、職場で働けるようになったとしても、その後、周囲との折り合いをなかなかつけられず、トラブルで退職する恐れがたぶんにあるように感じられます(「発達の遅れ」の子どもの就職について、就職後、何人ぐらいの人が何年ぐらい勤務しているかといった調査・報告は専門家でもわからないのが現状のようです)。

 

 何が問題なのでしょうか。一言で言えば、「成長に合わせて大切なことを準備してきていないから」に尽きるように思われます。

 

 当然、社会人であれば、「発達の遅れ」に関係なく、挨拶や返事、ルールに即した行動、周りとの協力、周りへの経過・結果の連絡・報告、上司からの指示を受けてやり遂げるといった最低限の力がいろいろな局面で求められます。「発達の遅れ」がある場合、見劣りする部分もあるでしょうが、企業実習を終えたあとによく聞かれるのが、「実際に働いてみて、挨拶や返事の大切さを改めて感じた」という率直な感想です。

 

 それがわかっているのならなぜ大人は先を見越して早くからそうした力を子どもに身につけさせようとしないのか、それが大きな疑問として残ります。むしろ現状は「無理をさせてはいけない」などの言葉を使って後回ししているように見えるからです。

 真の解決策はなんなのか……。Mさんのメッセージと息子さんの成長から私たちが学ぶべきことはたくさんあるように感じられました。

 

 

 今回の体験発表では、最後にMさんが話したメッセージが特に印象的でした。現在の療育や特別支援教育の課題が端的に語られていたと思うからです。

 Mさんは参加者に向かってこう言いました。

 

 「健常の子はいやでも学習する機会がありますが、障害があると『学習よりほかに必要なことがある』と言われ、学習する機会を与えてもらえませんでした」

 

 幼児期に「中等度〜軽度の知的遅れを伴う発達障害(自閉症)」と診断され、障害者手帳を取得した息子さんに対して、療育や特別支援教育の場で周りからさんざん言われた事実を踏まえての発言です。

 

 Mさんの息子さんは小学校では普通学級に入学したものの、コミュニケーションがうまくとれません。そこで、担任の先生は配慮と思ったのでしょう、何人かの子どもにお世話係を割り当て、息子さんができることまで他の子どもに任せました。そして、担任自身も息子さんを抱っこしたりおんぶしたりという、赤ちゃん扱いの状態でした。

 

 付き添ったMさんは、特別扱いによって息子さんが次第に好き勝手な行動をし始めたことが気になりました。「うちの子を特別扱いしないでほしい」とMさんが要望すると、担任から「私はあなたのお子さんだけを見ているわけではありません」と言われ拒絶されてしまったそうです。

 

 学習を受ける場にもかかわらず、「学習できないのであれば、学習できるように導く」という、学習の意義を認識した考え方は少ないようです。

 

 Mさんはこうした状況について「(専門家でさえも)たぶん教え方がわからなかったり、教えても知的障害の子にわかるはずはないと思われていたのかもしれません」と話しました。

 

 そして、続けて話した言葉がMさんと息子さんの成長を支える原動力になりました

 

 「でも、親は何としてでも(わが子に)成長してほしいので、やらずに諦めることは納得できません」

 

 傍観的でいられない、それが親の立場です。

 

 幼児期の息子さんの状態は、「3歳過ぎても言葉はなく、反応も薄く、周りの同じぐらいの年頃の子にも興味がなく、一人で遊んでいるような子ども」でした。多動と奇声もありました。

 Mさんはその現実とそれが「発達の遅れ」によるものだという現実をなんとか受け入れたものの、それに屈せず、少しでも課題を改善できる道を探し求めたのです。一般的な「障害を早く受け入れて、穏やかに過ごす」といった、「諦め」を前提にした「受け入れ」とは正反対の決断だったと言えます。

 

  Mさんの場合、親と子だけでは難しい学習についてその大切なポイントを過不足なく教えてくれる教室(エルベテーク)に出会い通うことによって、学習が「発達の遅れ」の改善に及ぼす大きな影響力を実感しました(エルベテークでの学習は3歳〜中学3年生)。

 

 息子さんの言葉が出るようなってから、Mさんが「宿題の内容を見て、息子にこんな力があるのか」と驚いた当時の気持ちについて体験発表で触れました。その時が親の役割にスイッチが入った瞬間ではなかったでしょうか。

 さらに、「見過ごされていた力だったのではないか」とも振り返りましたが、学習を始めることによって息子さんにいろいろなことができるようになっていく事実を間近で実感しました。それ以降、学校任せにするのではなく、家庭でも学習に力を入れました。

 

 コミュニケーションの未熟さがあるものの、小学校、中学校、高校での学習を通して、挨拶などの生活習慣や物事に取り組むまじめさ、忍耐力、我慢強さなどを身につけてきました。

 

 その成果が現在の息子さんの姿ではないかと思われます。21歳になった彼は、都内の職場にJRと地下鉄を利用し1時間ほどかけて通勤し、毎朝7時に家を出て8時半から夕方の5時15分まで勤務しています。「体調不良などの欠勤は一度もなく、元気に出勤しております」とのことです。仕事は、事務補助、郵便物の仕分けと各部署への配送業務、パソコンでのデータ・名刺入力、資料作成などです。

 

 「『挨拶は部署内で一番元気がいい』『指示を素直に聞いてくれるのでとてもスムーズに業務ができている』と上司から言われました」とMさんは語りました。

 当初、上司との間を調整する役割のジョブコーチが、息子さんの作業の様子を観察し、作業内容や手順などが安定して取り組めるように支援してくれました。週に2回ほど約2時間の目安で関わっていたものの、やがて上司との話し合いを経てジョブコーチの支援は終了となりました。

 仕事っぷりが認められ、現在、「常勤で……」という話も出ているそうです。

 

 

 M君の幼児期からの成長を振り返る時、Mさんの決断・行動で素晴らしかったことは、親としての希望がなかなか通じないなか、敵対的になる愚かさにいち早く気づき、学校の教師と協力していく方向へ転換したことではないかと思われます。

 そのMさんの決断・行動が状況を良い方向へと導いていったように思われます。

 

 小学校と中学校で迎えた大きな転換期がそのことを端的に物語っています。小学校では、普通学級の授業についていけないため支援学級へ変わることを余儀なくされましたが、その小学校では離席している子どもが目立ち、それを注意・指導する先生が見当たりませんでした。そのため、Mさんは「ここで息子は成長できない」と判断し、別の小学校へ転校することを決めたのです。

 

 「転校先の支援級に入ってからは先生と毎日連絡帳でやり取りをして、今まで甘えてきたことやしてはいけないこと、しなくてはいけないことなどの生活面をしっかり指導していただきました」とMさんは学校との協力関係、信頼関係の大切さに触れました。

 

 しかし、新しい小学校へ移っても、かねてから要望していた交流授業のほうはなかなか実現しませんでした。やがて、担任も息子さんの読み書き計算の力があることを知り、その力を評価した結果、算数、国語、音楽、図工、体育、道徳などの授業とすべての学校行事を親学級のほうで受けられるように調整してくれました。息子さんの力が伸びたからこそ実現したことだと思われます。

 

 中学校では、入学前に数学、英語、美術、音楽、体育などの交流授業を約束してもらったはずなのに、なかなかその機会が訪れませんでした。そこで、Mさんは5月の定期試験を受けさせてもらえるように学校側にお願いしました。実際に受けてみると、数学は90点以上、英語は60点台、国語は50点台という成績を収めました。しかし、担任にはこの成績は何かの間違いであるかのように受け止められ、結局、7月の期末試験まで受けることになったのでした。

 

 授業を受けていないにもかかわらずまた同じように素晴らしい成績を上げたことを教科の先生などが評価し、夏休み直前にようやく交流授業が始まりました。そこから息子さんの中学校生活が大きく変わったのです。

 

 特別支援教室の担任はパソコンを積極的に授業に取り入れていました。そして、パソコン部の顧問もしていた関係で息子さんはパソコン部に入部。「息子が少しでも成長できるよう、先生のご配慮で中学2年生の時に副部長を経験させていただき、3年生の時は部長を経験させていただきました」とMさん。

 

 

 高校入学にあたっては、就職を意識し、単位制高校を選択。電車通学しながら、試験前には家で5、6時間勉強しました。1年生の最初の前期試験で2教科追試になったものの、その後は卒業まで一度も再試験はなく、成績は上位だったそうです。漢検の2級とビジネス文書実務検定試験の1級も取得しました。「中学までにエルベテークで学んだ力がなければ、高校3年間での成長はなかったと思います」とMさんは振り返りました。

 

 高校卒業後、就職に関するスキルやビジネスマナーを学ぶために就労移行支援事業所に通い始めました。しかし、「就労移行」という名前とは裏腹に、企業実習の機会や就職活動への取り組みも見られませんでした。そこでエルベテークに相談に行くと、「就労移行支援事業所だけをあてにしていてはいけない。自分でハローワークに登録し、就職活動をするように」とのアドバイスを受けました。現在の職場で一般事務の応募があることも知り、すぐに応募し、書類選考と面接を経て合格しました。

 

 「就労支援」と言うと、就職することだけに目が向きがちですが、むしろ就職後、安定した社会人生活が送れるかどうかのほうがよほど大事な視点です。そして、そのために必要な力・姿勢とは何なのかは、Mさんの息子さんの成長記録が良い手本になるように思われました。

 

 指導者の河野俊一さんからは、Mさんの指導に当たったからこそ知っている事実が次々に語られました。また、Mさんの言葉を適切にフォローし、参加者にとって理解しやすい内容にしてくれました。

 

 特に、Mさんが息子さんの就職のことでエルベテークに相談に行き、その1ヶ月後に就職が決まった経緯について説明した言葉が記憶に残りました。

 

 「就職のための面接の練習とか、していないのであればそれは練習すればいいのであって、M君の場合、いまのこのような力をもっていたら相手のほうが『すごい子じゃないか』と、絶対そう思ってくれると確信しましたから、自分自身で就職活動することをお勧めしたわけです」

 

 M君の力と課題を踏まえた、理にかなったアドバイスだったわけです。

 

 なお、体験発表の途中では、4歳上のお姉さんから息子さんやMさんへの思いが綴られた手紙も紹介され、参加者の共感を呼びました。

 

 

 今回セミナーに参加された保護者は、埼玉県を中心に、東京都、神奈川県、茨城県、栃木県、群馬県、長野県、新潟県、北海道の1都1道7県に在住の方々でした。お子さんの年齢は、下が5歳、6歳、上は大学生、20代という状況でした。

 

 今回、テーマを「就職までのプロセス」としたこともあって、「息子は高校までは順調にきたが、大学でトラブルを起こし、家にいる。就職のことが心配だ」「一度会社に就職したが、電車内でトラブルを起こし、いまは無職のままで、困っている」といった保護者からの参加希望がありました。

 適切な教育・学習を受けられないままに成長し、不登校や引きこもり、未就労、退職など、社会に適応できない若者が世の中に非常に多いという事実を突きつけられた思いがしました。

 今回の体験発表がなんかの参考になったら幸いです。

 

 また、質疑応答の時間では、特別支援教育に携わる教師からの質問があり、より内容の濃いものになったと思いました。

 ある教師の方からは次のような感想をいただきました。

 「どの学校も充分な特別支援教育を行えているかというと決してそうではないと思います。しかし、家庭と学校が反発のみでは、子どもは決してよくならないと考えます。互いが歩み寄る後押しをして下っているエルベテークの活動は意味深いと考えます」  

 

 

【概要】

 

[テーマ] [就職までのプロセス(幼児から社会人への成長) みんなが知りたい、「発達の遅れ」を乗り越え社会人になるまで Part2] 

 

[プログラム] 体験発表(社会人2年目/21歳男性の母親・Mさん) + 進行・解説・質疑応答(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事・河野俊一さん)

 

[日時] 12月22日(土) 9:45〜12:30

 

[会場] メディアセブン プレゼンテーションスタジオ&コミュニケーションスタジオ(川口駅東口「キュポ・ラ」7階 048-227-7622 http://www.mediaseven.jp/)

 

[参加者] 91名(うち保護者、教師など有料入場者は84名)

 

[参加費] 800円

 

*より詳細な内容は近日中にホームページ上(「報告■REPORT」欄)で報告します