[NEWS]セミナー第13回を開催しました

2018年10月13日(土)、連続セミナー[わが子の「発達の遅れ」、その改善に取り組む保護者たち]第13回(赤い羽根共同募金重点助成事業 後援/埼玉県、埼玉県教育委員会、埼玉県社会福祉協議会、川口市、川口市教育委員会、川口市社会福祉協議会)を開催しました。


 第13回は、連続セミナーのテーマとして初めて就職を取り上げました。昨年春に就職した社会人2年目/20歳男性の幼児期から就職を経て現在に至るまでの成長記録を母親が体験発表しました。

 

 

 母親Mさんはまず、職場で働く現在の息子さんの様子について紹介しました。

 

 「現在、息子は20歳で、昨年の4月より障害者雇用で就職いたしました。職種は事務職で、ルーティンでする仕事と上司から依頼された仕事をしています。内容ですが、上司や周りの方の事務補助と郵便物を仕分けして各部署へ配る仕事、それからパソコン業務で名札入力やデータ入力、資料作成などをしております。先ほどお話があったように、毎朝7時前に家を出まして、8時半から5時15分までの勤務です。いままで体調不良などの欠勤は一度もなく、元気に月曜から金曜まで毎日出勤しています」

 

 母親のMさんの話によると、ラッシュ時間にもかかわらず、JRと地下鉄を利用する通勤にすっかり慣れたとのこと。もちろん、最初から難なく通勤できるようになったわけではなく、当初1ヶ月程度はMさんとご主人が交代で付き添い、駅のプラットホームのどのドアの位置で電車に乗り、どの改札口を使えばスムーズに通勤ができるようになるかをシミュレーションし、最適な方法を覚えました。その後は息子さんが周りの人とぶつかったり文句を言われたりすることもなくなったというのです。

 

 朝7時前に自宅を出て8時に職場に到着し、8時半から夕方の5時15分まで働く息子さん。ある週明け月曜日、台風がやってくるという天気予報のなか、息子さんは電車のダイヤが乱れるなどのトラブルに備えさらに早く自宅を出たそうです。

 

 こうした息子さんの社会人2年目の生活を紹介すると、幼児期に「広汎性発達障害」と診断された男の子の十数年後の姿だとはとうてい信じられない、と感じる方も少なくないと思います。

 

 最近、「就労支援」というテーマで「発達の遅れ」をもつ子どもの就職問題が取り上げられます。その中で披露される実例といえば、就職したものの周りと折り合いがつかずに短期間で辞めたり、「職場の上司や同僚が自分の『特性』を認めてくれなかった」とこぼしたり……、などのエピソードがほとんどです。

 

 たしかに「発達の遅れ」の程度が重く、障害者雇用で就職しようにも叶わない人たちがいることは事実ですが、Mさんの息子さんの成長は、「子ども自身に力をつけさせる」を目標に早い段階から適切な教育・学習を続けていけば子どもはしかるべき力をつけていく、その事実を如実に示す実例ではないかと思われます。

 

 ひと言で言えば、まずは周りの言葉や指示に耳を傾け、それを素直に聞き入れ、諦めずに最後までやり遂げようとする力と言っていいかもしれません。Mさんの息子さんはこの力を身につけたからこそ、現在、職場の同僚・上司に理解されながら自分の得意なパソコン業務で力を発揮する、そんな社会人生活を送っていると言えるのではないでしょうか。

 

 体験発表では引き続き、母親のMさんが息子さんの幼児期を振り返りました。

 

 「2歳半ぐらいで上の娘(長女)との違いを感じ始め、3歳過ぎても言葉がなく反応も薄く、同じ年頃の子にも興味がなく、一人で遊んでいるような子でした。そういう様子に気づいた私の母が自閉症の本を私にそっと置いていきました。それまで障害のことなど考えたことがなかったので、不安はいっきに膨らみました」

 

 その頃、「広汎性発達障害」という診断を受け、やがて障害者手帳を取得。障害者通園施設に通うものの、「ほんとうにこのままでいいのか」という思いが強くなりました。

 

 教室(エルベテーク)の具体的な指導とアドバイスのもとで学習を始めたのが息子さん3歳の時。言葉をまったく発していなかったので、教室では目をしっかり見ることと最後まで話を聞くように促しながら、目を見て発音をするように繰り返し教えていきました。

 

 この日の探検発表によると、その後、Mさんが家庭で特に気をつけて実践したことは、「なるべく息子と向き合って話をするようにしたことと、おうむ返しもひどかったので、おうむ返しにならないように常に目を見て注意していたこと」でした。

 

 少しずつ息子さんの読み書きの力がついたのを確認し、Mさんは小学校の普通学級に入れることにしました。しかし、指導上配慮してもらいたい点をレポートにまとめて校長をはじめ学校側に提出したものの、入学後、Mさんの希望と学校側の対応にズレが生じてしまったのでした。

 

 「配慮の意味がちょっと違う方向へ行ってしまい、……(中略)……息子ができることもすべてその子たち(お世話係)がやってくれて、先生も抱っこをしたりおんぶをしたり赤ちゃん扱いに甘やかせていって、だんだん息子も好き勝手をするようになってきました」

 

 Mさんは学校側と何度も相談したものの、思うように理解・協力してもらえず、結局、別の学校へ転校し、小学3年生から別の小学校の支援学級に移ることにしました。

 

 新しい小学校では、かなり経ってからようやく、算数、図工、音楽、体育、道徳などの授業を普通学級で受けられるようになり、その後、6年生まで学校行事は普通学級で過ごしました。支援学級での授業は1日1時間という日もあったそうです。

 

 すでに息子さんの算数の力は平均以上と思われたものの、中学校も支援学級に通いました。いつまで経っても担任の先生に希望した交流指導が実現しなかったため、業を煮やしたMさんは定期試験を受けさせてもらえるようにお願いしました。

 

 そして、中間テストを受けると、数学90点以上、英語も60点ほど、国語は50点ほどと、授業も受けていないのに平均以上の成績をあげました。学校側は「これはなにかの間違いじゃないか」という雰囲気になったので、再度、期末テストを受けることになり、そこでもまた見事な成績を収めたのです。

 

 ようやく「どうしてこの子を普通学級の授業を受けさせていないのか」と職員会議で話題になり、そこから本格的な交流指導が始まりました。

 

 培ってきた力を周りに評価してもらったという点では、中学校が大きな転機になったと言えます。同時に、パソコンという、得意分野に出会うきっかけともなりました。

 

 「特別支援学級の中で毎日パソコンの授業がありました。支援級の先生が部活のパソコン部の顧問もしていましたので、パソコン部にも入部いたしました。パソコン部でパソコン入力検定というものを何度か受けていまして、そこの成績で中学校3年生の時に全国大会に行き、決勝まで残ることができました。パソコンに関しては高校でも選択授業で続けていました」

 

 コミュニケーション能力がまだまだ未熟な息子さんの状態を考慮に入れ、高校は単位制の学校に通うことにしました。学校では、文化祭実行委員や美化委員などを務め、家庭でもコツコツ勉強しました。物事に積極的に取り組む習慣が出来上がっていたからです。

 

 しかし、単位制高校を選んだ以上、特別支援学校高等部のような就労実習を経験する機会がなく、就職の斡旋や案内なども行われませんでした。そのため、就職を控え、Mさんは就労移行支援事業所に通うことにしました。

 「ここで就職が決まる」と思っていたMさんですが、なかなか就職活動の機会が訪れないことで不安になり、エルベテークと相談した結果、ハローワークに登録するとともに求人情報を検索して自ら就職活動を開始することを勧められました。

 

 その活動が実を結び、やがて現在の職場が障害者雇用として一般事務の職員を求職していることを知り、応募。就職につながりました。ただ就職したというだけでなく、パソコンスキルのほか、挨拶や指示を嫌がらずに受け入れて実行する力などが周りの同僚や上司から評価されている点が注目すべきポイントです。

 

 「職場では息子のパソコンスキルと資料チェックなどの正確さをほめていただいて、あいさつとか指示を受け入れる態度などもほめていただいています。……(中略)……パソコンはほんとに得意で他の方ができない資料もつくってくれるということと、入力が速いのでその点は仕事の効率が良くほめていただいています」

 

 息子さんの場合、彼から「もっと私のことを理解してほしい、認めてほしい」などとことさらに要求する必要はないのです。周りが息子さんの力やまじめな性格を高く買って応援しているのですから。

 結局、教育・学習の力とはこういうことだと思います。

 

 最後に、わが子の幼児期の様子と、週5日、毎朝はつらつと出勤していく現在の様子を比較しながら、Mさんはこう振り返り、参加者へ向けてエールを送りました。

 

 「その頃はほんとに息子のためと思っていっぱい恥もかきましたし、ゆううつになることもいっぱいありましたけれども、やっぱり辛いことだけじゃないですし、うれしかったことやいいこともありましたので、成長するお子さんを信じてやることが大事だと思います」

 

 

 連続セミナーのために時間をつくり、体験発表していただいたMさんに改めて感謝いたします。

 

 なお、今回セミナーに参加された保護者は、川口市を中心に埼玉県、東京都、神奈川県、千葉県、栃木県、群馬県、新潟県の1都6県に在住の方々でした。お子さんの年齢は、下が4歳、上は高校3年という状況でした。

 

[テーマ] 「みんなが知りたい、「発達の遅れ」を乗り越え社会人になるまで」 

 

[プログラム] 体験発表(社会人2年目/20歳男性の母親・Mさん) + 進行・解説・質疑応答(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事・河野俊一さん)

 

[日時] 10月13日(土) 9:45〜12:00

 

[会場] メディアセブン コミュニケーションスタジオ(川口駅東口「キュポ・ラ」7階 048-227-7622 http://www.mediaseven.jp/) 

 

[参加者] 38名

 

[参加費] 800円

 

*より詳細な内容は近日中にホームページ上(「報告■REPORT」欄)で報告します