[REPORT]報告-セミナー第10回(2018年6月2日)

 私どもNPO法人Education in Ourselves 教育を軸に子どもの成長を考えるフォーラムによる「発達の遅れ」連続セミナー「わが子の「発達の遅れ」、その改善に取り組む保護者たち」第10回(後援:埼玉県、埼玉県教育委員会、川口市、川口市教育委員会、川口市社会福祉協議会)を川口市のメディアセブンで開催しました。


【概要】

 

テーマ「大人の接し方が変われば、子どもは伸びる Part 2

▶お話(体験発表) 高校2年生の母親(松本さん)

▶進行・解説と質疑応答 河野俊一さん(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事)

▶6月2日(土) 10:00〜12:20 メディアセブン(川口市川口1-1-1)コミュニケーションスタジオ

▶参加者 30名(うち保護者25名)  ▶参加費 500円

 

 「発達の遅れ」連続セミナー第10回は、前回(第9回)お話しいただいた保護者の松本さん(高校3年生の母親/保育士)に改めて体験発表をしてもらうことにしました。前回申し込みながら定員の関係で参加できなかった方にも、経験に基づいた貴重なお話を聞いていただけるのではないかと考え、Part2を企画しました。

 

 Part2では、小学校から中学校まで家庭でどのように接し教えたのか(学習面ならびに生活面)、家庭学習の核心はなんだったのか、友達との関係をどのように導いたのかなど、特に保護者の関心ある部分に焦点を当て、より詳しく体験発表をしていただきました。

 

 また、今回は、申込書に記入してもらった質問や会場からの質問に対する質疑応答の時間を長くとり、少しでも子育てに応用できる情報提供に努めました。

 

【体験発表】

 

 当日の、お話の流れは以下の通りです。

 

(1)現在の子どもの様子

・性格(真面目さ、明るく積極的)、学習習慣、生活習慣、交友関係など

 

(2)幼児期の様子

・家庭や保育園での問題、診断を受けたこと

 

(3)小学校・中学校生活

・就学相談から小学校入学まで

・小学1年1学期の様子と学校側からの話

・「どうにかしなくては」との強い思いと学習を始めてからの変化、2学期に担任から言われたこと

・姿勢、鉛筆の持ち方から文字の書き方などの学習面、あいさつや返事、コミュニケーションについての子どもの成長

・周りとの付き合い方

・遊びを優先した時の反省と家庭学習の立て直し

 

(4)高校生活(現在)の様子

・家庭学習、成績、生徒会活動、各種検定など

・小学校から高校まで1日も休まずに学校へ通っていること

 

■■

 

 ところで、前回、冒頭で松本さんが次のように話されたことが印象に残っています。

 

 「今の息子の様子はほんとうに穏やかで、年中の時の多動的で攻撃的だった部分は(学校の)どの先生が見ても『信じられない』というお話をいただくほどです。ちょっと素朴な感じで、周りに流されない。強く自己主張するわけではないんですけれども、意思をしっかり持っていて、自分でコツコツ、自分の計画したものを確実にこなしていくという感じですね」

 

 今回も、息子さん(長男)の現在の様子について説明がありました。

 

 「すべて自分で考えて行動する子になっています。学校の生徒会とか、クラスで何か決まらない時には『誰もやらないんだったら』ということで積極的に手を挙げて役割を自分から受けたり、そういう面も最近見られています。

 学習に関しては、高校に入ってからずっと私のほうで口出すことは何もないんですけれども、自分で足らないもの必要なものを調べたり、わからないものは教室(エルベテーク)のほうに質問するような形で自分で題材を考えて、時間も自分でうまく使えるようになっています。

 生活習慣に関しては、身の回りのこと、忘れ物とか、そういうのも全部自分で確認してほぼ間違いなく持っていきます。そういう几帳面さが見られます」

 

 そのうえで、エルベテーク・河野俊一さんの進行のもと、松本さんは自分の記憶をたどるように幼児期の子育てについて話されました。

 

 現在は明るく誠実で成績優秀な高校3年生の息子さんですが、子育ては山あり谷ありの連続でした。

 

 年中の時には「高機能自閉症」、就学前には「広汎性発達障害」「多動性障害」と診断されたこと(周りに相談しても返ってくる言葉は、「大丈夫だよ」「学校に行くまでにどうにかなるから」だったそうです)、小学校入学にあたって特別支援学級を勧められたものの、両親は「普通学級で様子をみてほしい」と強く希望したこと(診断名から「自閉症」という言葉が消えたことが大きかったようです)、しかし、結局、授業についていけず、1学期の終わりに担任から「2学期には特別支援学級へ移るように」と言われたこと……。

 

 当時、松本さん自身、保育士としての勤務時間を極力減らし、わが子の家庭学習に付き添っても、ドリル1ページを学習させるのさえ長い時間がかかるため、なかなか先に進まなかったそうです。息子さんは1+4が5になるという理解がわからない状態でした。また、文字の書き順を教えようとしても、書き順が覚えらない状態では学習そのものが成り立ちません。

 こんなことを繰り返すうちに、息子さんも嫌になってきて、泣く、わめく、すると松本さんもそれに言葉で押さえつけるという悪循環に陥りました。

 

 やがて「どうにかしなくては」と必死な気持ちになった両親は、その夏休みにようやく効果的な接し方・教え方を探り当て、そこからが本当の子育てのスタートでした。

 

 アドバイスにしたがって家庭学習を組み立て直しました。なによりも、子どもが取り組む姿勢に気づけるようになり、その姿を親がほめることによって子どもも素直に応じられるようになりました。両親も「責任を持ってかかわらなければ」と考えるに至ります。

 当初は家庭学習として2、3時間関わり続けましたが、その積み重ねが小学校高学年ごろには目に見える学力となって現れました。

 

 そして、息子さんは学習を重ねるにしたがって、自ら計画を立てやり遂げる習慣を身につけるまでになりました。生活面や性格面への影響が大きいと松本さんは言います。

 その基盤の上に周りが驚くほどの力を発揮し、現在に至っています。

 

■■

 

 繰り返しますが、「多動的で攻撃的だった部分」を改められたのは教育/学習の力です。小学1年生の1学期、息子さんはひらがなも書けず、文章もスラスラと読めず、足し算は5より先はできなくなるといった状態でしたが、そのハンディを乗り越えたのは「子どものペースに合わせる」接し方ではなく、「どうにかしなくては」という危機感が土台となった導き方(1年生の夏休みから開始)にありました。

 

 セミナーに参加された保護者の関心事は、やはり、家庭学習の質を長期間維持する秘訣についてでした。

 

 申込書の「聞きたいこと」の項目には、「家庭で学習をさせる際、子どもがぐずったり嫌がったりした時には、親としてどのような対応をしましたか?」「学習の習慣が一度身についていたが、環境の変化でまた崩れてしまいました。継続して、日々の学習に取り組めたのは、やる時間帯、言葉かけ、どのように工夫されたのか教えてください」「前回、お話を伺い、長い間、家で学習を続けていることに感動しました。親としてそのモチベーションを支えているのはなんでしょうか?」といった質問がありました。

 

 心がけたこと、それは松本さんの説明によると、「取り組ませる姿勢」です。

 

 「それまでは学習の課題だけ。足し算ができるようにならなきゃいけない、国語が読めるようにならなきゃいけない、そういうものばっかりに目が行って、『追いつかなきゃいけない、追いつかなきゃいけない』っていう、そこに自分の中心がありました。生活的な基本というんですか、座って目を見てきちっと話をするという、自分の基本の姿勢を忘れていることに気づきました」

 

 このように、読み書き計算やコミュニケーションなど、子ども自身の力をつける最初のステップは、子どもに「応じる姿勢」を身につけさせることにあると思われます。応じることができるようになるから、教わることができるようになり、力を伸ばすことができるという流れが生まれのではないでしょうか。

 

 この基盤が整っていないのに、表面的な「できた」「できない」にこだわっていると、学習の効果は期待するほど上がらないでしょう。あるいは、子どもの言い分に反応したり不適切な言動の原因を探ろうとしたりするうちに、子ども自身に社会性を含めたさまざまな力をつけるという、子育ての目的が見失われやすいと言えます。

 

【解説】

 

 今回のセミナーでは「友だちとどのように付き合わせればいいか」も大きなテーマになりました。エルベテークの河野俊一さんからは、互いに言葉のキャッチボールができ、相手を信頼し、また相手もこちらを信頼している友だちこそが本当の友達ではないか、といった指摘がありました。友だちの数をやたらに自慢する、現在の風潮に河野さんは疑問を投げかけました。

 

 松本さんからは、わが子の子育て体験の基づいて導き方について次のような話がありました。

 

 「クラスでLINEができていてその中でたくさんの友達がいるという子ではないので、自分で『あっ、この子はすごく自分と気が合う、わかってくれる』というのを判断する子なので、普通の子に比べたら多分(友だちの数は)少ないと思うんですけれども、小学生の時からの子と中学生の時からの子、あとは高校生になっても、クラスが一緒ではないんですけれども『価値観が一緒』と自分で思う子のことはすごく大事にして長く付き合いをしています」

 

 この冷静なお話がすべてを物語っているように感じられました。

 

【質疑応答】

 

 以下の質問などに対し、河野俊一さんと松本さんからそれぞれアドバイスがありました。

 

「最近になって聴覚過敏傾向がみられ、授業に集中できていない。運動会の練習も応援の声がうるさいと言って、参加しない。授業中周りの声がうるさいと保健室にいく。給食も周りがうるさいと言って教室を出て行き、少人数教室へ行って先生と二人で食べる。周りの評価に過敏に反応。友達が自分をバカにすると言って、攻撃的になる。整理整頓ができない。忘れ物、なくし物がとにかく多い」(小4)

→同じような質問として……「集中力がなく授業が聞けません」(小2)

「ほぼ毎日、学校に行くのを嫌がり、無理やり連れていこうとするも、行きたくないと抵抗する。友達のつくり方についても聞きたいです。また、毎晩、ネットで寝るのが遅いです」(小4)

→同じような質問として……「自ら学習に取り組むことができないこと。行動も含めて」(高1)

「困っていることは、子どもの進学、進路への不安。たくさんの情報から自分の子どもにあった情報を見つけるのが難しい。大人や兄弟とはコミュニケーションがとれるが、同世代の友達とは難しく、友達ができない。学習面の苦手なもの(漢字、文字を書く、板書など)をどこまでがんばってやるべきか迷う」(小5)

「家庭で学習をさせる際、子どもがぐずったり嫌がったりした時には、親としてどのような対応をしましたか?」(小3)

 

【アンケート】(全部で20通。その一部を原文のまま紹介します)

 

●保護者の体験発表についての感想-1「特にどの部分に共感されましたか?」の回答

 

・就学前の保護者の声

「友人との関わり方に対して、自分の子供も大きくなったときに同じような事例が発生すると思えるので、役に立ちそうと思いました」(年少の保護者)

 

・小学生の保護者の声

「学習に関しては、練習量が肝心であること、時間はかかるが、いつかかならずできるようになると信じて頑張ろうと思います」(小学2年生の保護者)

「小さいうち、大変な思いをしても親がつきあっていくことで、大きくなった時にきちんと身につくという話」(小学4年生の保護者)

 

・中学生の保護者の声

「親の信念を曲げない」(中学1年生の保護者)

 

・高校生の保護者の声

「親の子供に対する接し方について再確認しました」(高校3年生の保護者)

 

●保護者の体験発表についての感想-2「『自分の子育てに役立ててみよう』と思ったことはなんでしょうか?」の回答

 

・就学前の保護者の声

「目を合わせる。友達づくり、友達づきあい。やるべきことをやらせる。子どもとの話し合い、コミュニケーション」(3歳の保護者)

 

・小学生の保護者の声

「応じる力をつけてみたいです。子供との話し合い「将来について」してみたいです」(小学5年生の保護者)

「やるべきことを優先させる。ぶれないことが大切だと思いました」(小学5年生の保護者)

 

・中学生の保護者の声

「友人作りに悩んでいましたが、本人が自分で作れる時期まで見守ろうと思います」(中学2年生の保護者)

 

●保護者の体験発表についての感想-3「その他、今回の体験発表で強く感じたことをお書きください」の回答

 

・就学前の保護者の声

「松本さんが非常におちついていて、わかりやすく伝えて下さって良かったです。非常に参考になりました」(年少の保護者)

「すごく具体的にお話下さったので、とてもに参考になりました」(3歳の保護者)

 

・小学生の保護者の声

「あいさつ、姿せいなど基本的なことの大切さ」(小学4年生の保護者)

 

・高校生の保護者の声

「もう一度基本的なあたりまえのことを改めて見直したいと思いました」(高校1年生の保護者)

 

●河野さんの解説についての感想

 

「松本さんの話す内容にそって、よりくわしく話を膨らませて説明してくださり、わかりやすくなるのがよかったです」(3歳の保護者)

「丁寧で良かったです」(3歳の保護者)

「経験に基づくお話で理解がすすんだ」(小学4年生の保護者)

「数々の事例に基づいてのお話は、いつも説得力が有り、有り難かったです」(中学2年生の保護者)

 

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  なお、今回参加申し込みの保護者は、川口市を中心に埼玉県、神奈川県、千葉県、茨城県、栃木県、群馬県、長野県の7県に在住の方々でした。お子さんの年齢は、下が3歳、4歳、上は高校3年生でした。

  今回は、ご夫婦そろっての参加者の保護者も複数いらっしゃいました。ありがとうございました。

 

 今回のセミナーについて、『広報戸田市』5月15日号で案内してもらいました。

 今後とも、保護者による長期的・具体的な体験発表を聞く機会を通して、多くの方が「教育・学習を通してどの子どもも変わりうる、『発達の遅れ』があろうがなかろうが接し方・教え方の基本は共通だ」という認識がもてるよう、当NPO法人としても連続セミナーの開催に力を入れていきたいと考えています。

 

 なお、次回、次々回の予定は次の通りです。

 

■第11回

・テーマ「アメリカでは巡り会えなかった指導法に出会った」

・お話(体験発表) ミドルスクール8年生/14歳の母親(主婦)

・進行と解説 河野俊一さん(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事)

・7月14日(土) 10:00〜12:00 メディアセブン/コミュニケーションスタジオ(川口市川口1-1-1キュポ・ラ7階)

・定員 30名(保護者)  ・参加費 500円

 

■第12回

・テーマ「母と子の努力を家族みんなが支えた」

・お話(体験発表) 高校1年生の母親(会社員/元看護師)

・進行と解説 河野俊一さん(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事)

・8月4日(土) 10:00〜12:00 メディアセブン/コミュニケーションスタジオ(川口市川口1-1-1キュポ・ラ7階)

・定員 30名(保護者)  ・参加費 500円

 

(報告/2018年6月6日 知覧)


(撮影 知覧)