[REPORT]報告-セミナー第4回(2017年6月19日)

連続セミナー「わが子の「発達の遅れ」に直面した保護者とともに考える」第4回(後援:埼玉県、埼玉県教育委員会、川口市、川口市教育委員会 平成29年度埼玉県NPO活動促進助成事業)を川口市のメディアセブンで開催しました。


【概要】

 

・テーマ「家庭での、言葉・読み書き・コミュニケーションの指導について

・お話(体験発表) 小学4年生の母親

・まとめと質疑応答 河野俊一さん(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事)

619日(月) 10:4012:30 メディアセブン(川口市川口1-1-1)コミュニケーションスタジオ

・参加者 32名(うち有料参加者18名)

・参加費 500円(資料代)

 

【体験発表】

 

 417日さいたま市の武蔵浦和コミュニティセンターで開催した第2回のアンコール開催になります。今春、小学4年生になる息子さんをもつ母親から、「知的遅れを伴う自閉症」と診断された長男の子育ての歩みについて貴重な体験発表がありました。

 

 今回は特に、参加者から要望が強かった家庭学習の進め方と学校との関係づくりに焦点を当てて、話されました。

 

 (1)年中の秋に「知的遅れを伴う自閉症」と診断され、言葉がまったく出なかった息子さんが、幼児期からさまざまな療育施設での療育を経験したあと、年長の7月から取り組んだ学習を通して就学までに身につけた力について

 

 (2)母親が信頼した指導法(基本的な「学ぶ姿勢」を重視する接し方・教え方)を家庭でも地道に実践した手応えや具体的なエピソードについて

 

 (3)特に、覚える力が弱いという課題を克服するために、学習面(たし算、ひき算、かけ算などの練習)と生活面(コミュニケーションやルールを守る練習)で取り組んだ母親の工夫と努力について

 

 (4)ひとつの課題を克服し始めるとまた現われてくる新たな課題(たとえば、しつこく話しかけるなど)に対処するため、周りのアドバイスに従いながら家庭での接し方・教え方を見直したポイントについて

 

 (5)現在、特別支援学級に在籍する小学4年生の息子さんの現在の学習(小2レベルの読解、小3レベルの漢字の読み書き、筆算のかけ算・わり算などを学習中)と生活の様子などについて

 

 (6)学校生活・家庭学習の中で親(母親・父親)が果たすべき役割・責任について

 

 この日のセミナーの冒頭、母親はこれまでの歩みを振り返って、「成長の第一段階として言葉が話せるか話せないかでその後の成長の伸びが大きく様変わりしますし、もしあの時諦めていたら息子が今も当然話せずに、何をするにも絵カードやタブレットが手放せない不自由な生活を送っているはずです」と感想を述べました。

 

 かつて適切な指導を受けるまでは、どの療育機関に相談しても、「話したい気持ちを育てる」「絵カードを使って言葉を教えていく」「言葉を話すには段階がある」と言われ、そのアドバイスに従って家庭でも取り組んできた母親でした。しかし、まったく発語につながらなかったそうです。

 

 通っていた幼稚園の園長先生から聞いた話をきっかけに、ようやく年長の秋から直接的な言語指導を受けるようになり、大きく成長する基盤づくりが始まりました。母親は、あいさつや返事、目を見て聞くことなど、教えてもらった練習方法を家庭でも実践しました。

 

 たとえば、最初の段階から口元を直接触って口の開け方から息の出し方、舌の動かし方などを一から丁寧に教えていきました。支えていたのは、「まずは発音ができるようにしなければ」という母親の強い気持ちでした。

 そして、こう話しました。

 

 「就学前までに簡単な受け答えができるようになり、要求を言葉で『オレンジジュースください』『ハンバーグください』と伝えられるようになりました。おばあちゃんに夕食をご馳走になったお礼を『ありがとうございました』と初めて伝えられた時には、もう喜んでくれて感動していました」

 

 また、息子さんには言葉の遅れだけでなく、なかなか覚えられないという課題もありました。足し算の学習などで困難を生じたために、母親は家庭でドアに1日ひとつの式を貼って読ませたり、家事の合間に「1たす2?」と質問したりするなどの練習を毎日繰り返しました。その結果、足し算、引き算、繰り上がり、繰り下がりの計算ができるようになっていきました。

 

 現在は、小学校は特別支援学級に通いながら、家庭と教育機関において2レベルの読解、小3レベルの漢字の読み書き、筆算のかけ算・わり算などを学習中とのことです。

 

 いま、母親はこう感じているそうです。大切なのは、家庭での練習方法を正しく教えてもらい、それを親が実践できるか、そこが重要だ、と。

 

【まとめ・解説】

 

 河野俊一さんからは、体験発表した母親の実例を踏まえながら、家庭教育の大切さが述べられました。世の中を見渡すと、「頑張らなくていい」「無理しなくていい」という見方が大勢を占めていますが、河野さんはそうした見方に疑問を投げかけ、まずは身近な自分の家庭という場で親としての役割と責任を持つことの大切さが強調されました。

 

 子どもが言い訳を始めたら、それに付き合わずに、「あなたのことを考えてお父さん、お母さんがどれだけ練習しているか、あなたわかっているよね。あなたも大変かもしれないかもしれないけれど、みんな応援しているんだから、頑張りなさい」というように対応するのが親としてのあるべき姿だという指摘でした。

 その際、父親と母親が同じ方向を見て子育てに当たることがポイントだとのことです。

 

 また、保護者なりにいろいろな接し方・教え方を参考にしながら、「自分の子どもだったら、この部分はやっていきたい」と考える、そうした創意工夫や努力が求められる、と河野さんは語りました。根気よく練習することによってやがて手ごたえと自信が生まれるはずとも指摘しました。

 

【質疑応答】

 

 参加された保護者から質問が多かった家庭学習の具体的な進め方、不適切な言動に対する対応の仕方について、母親と河野さんがそれぞれの立場から答えました。

 

【アンケート】(全部で13通。その一部を原文のまま紹介します)

 

●保護者の体験発表についての参加者の感想

 

・就学前の保護者の声

 

「幼少期から似ている点が多く、参考になりました」(2歳の保護者)

 

・小学生の保護者の声

 

「とても具体的で自分の子供にオーバーラップして希望が持てました。直接的に参考になる部分も多く、ありがとうございました」(小学2年生の保護者)

「具体的な例を挙げていただき、すぐに息子にも取り入れられる事もいくつかあったのでとても参考になりました。ら行の発音練習方法、息の出し方、気になる行動が出そうになったら出る前に止める、あいさつ等する姿勢」(小学2年生の保護者)

「身近な生きた体験発表はとても参考になりました。言葉が出ない、覚えられない、応じられない——親子で精一杯頑張っても成果が表れない時、放り出したり、あきらめそうになる事がありますが、そこでふみとどまることが大切だと思いました。教えなければ、身につかないので、何があっても続けることが必要だと思いました。親が前を向けば、何かしらの解決策は見つかるし、その熱意は子に伝わると思います」(小学3年生の保護者)

「毎日くり返し家中のドアに教えたい事を張ってゆくと言う姿勢にすべてを物語っている、と思います。見習いたい」(小学4年生の保護者)

 

・中学生の保護者の声

 

「発語がない時の親の気持ち、そこから、くり返しくり返し教えて今の状況にある。すごく努力されたのだと感心しました」(中学2年生の保護者)

 

・高校生の保護者の声

 

「見通しがたってきて頑張れたというお話でした。私は今まで頑張っても見通しが立っていない気がします。限界を決めない根気よくということで頑張ってきました。大きくなってしまっても、まだ可能性はあるのでしょうか?」(高校2年生の母親)

 

●参考になったこと

 

「息のはき方、着座の必要性、丁寧語で指示をする、声の大きさを覚えさせる」

「発語の促し方」

「学習の段階の上げ方。学校との関わり方」

「親が限界を決めずに、信頼できる人と協力し合いながら親子で努力する事が大切であること」

「日々のスモールステップでの指導方法と子供を信じる親の気持と姿勢」

「改めて、繰り返し学習する大切さを学びました。そして、「学ぶ力を育てる」意味を確認し、これからまた頑張ろうと思う力を頂きました」

 

●河野さんの解説についての感想

 

「まずは目を見ること、話を聞くこと、家庭での学習を頑張ろうと思いました」(2歳の保護者)

「わかりやすくてとても為になりました。限界をもうけない、チャレンジさせる場をもうけるという話にとても感銘しました」(小学2年生の保護者)

「すべての人が改善する。無理をさせてはいけないと言うけれど、無理をするから人は努力するし、背伸びをしないと伸びてゆかない」(小学4年生の保護者)

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 実は、今回のセミナーには、ある小学1年生の男の子が母親と一緒に参加していました。年長だった昨年の夏休みまでは言葉をまったく話せなかった子どもですが、今では効果的な指導によって発音・発語ができるようになっています。

 そればかりか、読み書き計算、コミュニケーションの練習を積み重ねるにつれ、自分をコントロールする力も少しずつついてきました。

 

 

 この日、セミナーは約2時間続きましたが、その間、この男の子は席を離れることもなく、持参したワークブックを使って静かに学習を続けていました。男の子の1年前の状態を知ったら、みんな驚くはずです。ここまで変わるという、学習・教育の力を感じさせる光景だと感じました。

 

(報告/2017年7月10日 知覧)


(撮影 知覧)